アミロイド・アミロイドーシスとは
アミロイドとは,私たちの体を構成しているタンパク質の形や性質が変わり,水や血液に溶けにくい線維状の塊となった物質です.アミロイドが体に沈着することにより引き起こされる病気をアミロイドーシスと言います.
アミロイド・アミロイドーシスの分類
アミロイドは,アミロイドのもとになるタンパク質により分類することが基本です.例えば,トランスサイレチン(TTR)というタンパク質から作られるアミロイドをATTRアミロイド,これによる病気をATTRアミロイドーシスと呼びます.同様に,免疫グロブリン軽鎖というタンパク質から作られるアミロイドをALアミロイド,これによる病気をALアミロイドーシスと呼びます.
アミロイドーシスは,全身性と限局性に分類されることもあります.全身性は,いくつもの臓器にアミロイドが沈着し障害される病型で,代表的な病型にATTRアミロイドーシス,ALアミロイドーシスがあります.一方限局性は,アミロイドの沈着が1つの臓器に限局する病型で,代表的な病型に脳に限局するアルツハイマー病(Aβアミロイドーシス)があります.
アミロイドーシスは,障害される臓器により分類されることもあります.例えば,心臓が主に障害された場合は「心アミロイドーシス」,腎臓が主に障害された場合は「腎アミロイドーシス」,末梢神経が主に障害された場合は「アミロイドニューロパチー」と呼ばれます.
表1 主なアミロイドーシスの分類
主なアミロイドーシス | アミロイドのもとになるタンパク質 | 原因 | 障害される主な臓器 | 主な治療 |
---|---|---|---|---|
遺伝性ATTRアミロイドーシス | 変異型トランスサイレチン (遺伝子の変異により配列が変化したTTR) |
遺伝 | 末梢神経,心臓,眼 | ブトリシラン パチシラン タファミジス |
野生型ATTRアミロイドーシス | 野生型トランスサイレチン (ほとんどの人が持っている一般的な配列のTTR) |
加齢 | 心臓,靱帯 | タファミジス |
ALアミロイドーシス | 免疫グロブリン軽鎖 | 骨髄形質細胞の異常 | 腎臓,心臓,消化管,肝臓,末梢神経 | ダラツムマブ ボルテゾミブ サイクロフォスファマイド デキサメサゾン など |
AAアミロイドーシス | 血清アミロイドA(SAA) | 慢性炎症(関節リウマチなど) | 腎臓,消化管,心臓 | 関節リウマチなどの炎症の原因になっている病気の治療強化 |
Aβ2Mアミロイドーシス | β2ミクログロブリン(β2m) | 透析 | 関節,骨,靱帯 | 透析液や透析方法の工夫 |
主なアミロイドーシスの解説
1. ATTRアミロイドーシス
ATTRアミロイドーシスは,トランスサイレチン(TTR)というタンパク質から作られるアミロイドが全身に沈着する病気で,遺伝性ATTRアミロイドーシスと野生型ATTRアミロイドーシスに分類されます.
1) 遺伝性ATTRアミロイドーシス
(別名:トランスサイレチン型家族性アミロイドポリニューロパチー)
原因:トランスサイレチン(TTR)遺伝子の変異(変化)によりTTRタンパク質の配列が変化することが原因です.肝臓で作られて血液中に分泌されたTTRがアミロイドを形成して全身組織に沈着します.TTRは体の中では同じタンパク質が4個集まって四量体を形成しています.遺伝子の変異により四量体が不安定になって,アミロイドを作りやすくなっています.
症状:末梢神経の障害による手足のしびれ・痛み,筋肉のやせ・脱力,自律神経の障害による下痢・便秘,嘔気・嘔吐,低血圧,心臓の障害による息切れ,むくみ,動悸,不整脈,目の障害による視力低下,視野障害が主な症状です.
治療:主な治療薬に,肝臓でのTTRの産生を抑制する注射薬(ブトリシラン,パチシラン),血液中のTTR四量体を安定化する内服薬(タファミジス)があります.以前は肝移植も行われていましたが,有効な薬物治療が開発されたため,現在ではほとんど行われていません.
遺伝:1/2の確率で病気の原因となる変異(変化)を持った遺伝子が親から子に引き継がれます.病気の原因となる遺伝子を引き継いでも必ず発症するとは限りません.遺伝に関する相談は,遺伝カウンセリング外来を利用することができます.
2) 野生型ATTRアミロイドーシス
(別名:老人性全身性アミロイドーシス)
原因:肝臓で作られて血液中に分泌されたTTRがアミロイドを形成して全身組織に沈着します.加齢が原因の1つですが,詳しい原因は不明です.TTR遺伝子の変異(変化)はなく、遺伝はしません.TTRタンパク質の配列も通常の人と同じです.高齢の男性に多い病気であると考えられています.
症状:心臓の障害による息切れ,むくみ,動悸,不整脈,手根管症候群による手指のしびれ・痛みが主な症状です.脊柱管狭窄症や腱断裂の頻度も高いことが知られています.
治療:主な治療薬に,血液中のTTR四量体を安定化する内服薬(タファミジス)があります.
注)トランスサイレチン型心アミロイドーシスと診断されている患者さんのほとんどは野生型ATTRアミロイドーシスですが,遺伝性ATTRアミロイドーシスの患者さんの一部もトランスサイレチン型心アミロイドーシスと診断されることがあります.
2. ALアミロイドーシス
(別名:原発性アミロイドーシス)
ALアミロイドーシスは,免疫グロブリン軽鎖というタンパク質から作られるアミロイドが様々な臓器に沈着する病気で,全身性ALアミロイドーシスと限局性ALアミロイドーシスに分類されます.
1) 全身性ALアミロイドーシス
原因:骨髄で増殖した形質細胞からアミロイドになりやすい免疫グロブリン軽鎖が作られることが原因です.骨髄で作られた免疫グロブリン軽鎖が血液中に分泌され,アミロイドを形成して全身の臓器に沈着します.
症状:腎臓の障害による蛋白尿,むくみ,心臓の障害による息切れ,むくみ,動悸,不整脈,消化管の障害による下血,末梢神経の障害による手足のしびれ・痛み,自律神経の障害による低血圧などです.
治療:主な治療薬に,骨髄の形質細胞を選択的に攻撃する抗体薬(ダラツムマブ)があります.その他にボルテゾミブ,シクロホスファミド,デキサメタゾンなどの薬剤や自己末梢血幹細胞移植も治療の選択肢になります.
2) 限局性ALアミロイドーシス
原因:特定の臓器(気道、胃腸、尿管など)に存在する形質細胞からアミロイドになりやすい免疫グロブリン軽鎖が作られことが原因です.形質細胞が存在する近くの組織にアミロイドが沈着し、腫瘤を形成する場合もあります.
症状:気道にアミロイドが沈着すると息苦しさなどの症状が出現します.消化管にアミロイドが沈着すると下血などの症状が出現します。尿管にアミロイドが沈着すると尿が流れなくなり,尿が腎臓に貯まってしまう「水腎症」が出現します.
治療:生活に支障がなければ経過観察のみで治療の必要はありません.アミロイドが原因で生活に支障のある場合は、アミロイドによる腫瘤を切除する,点滴で消化管を休ませるなどの治療を行います.
3. AAアミロイドーシス
(別名:続発性アミロイドーシス)
AAアミロイドーシスは,血清アミロイドA(SAA)というタンパク質から作られるアミロイドが様々な臓器に沈着する病気です.
原因:関節リウマチなどによる慢性の炎症が長期間持続することが原因です.炎症によってたくさんのSAAが肝臓から血液中に分泌され,アミロイドを形成して全身臓器に沈着します.
症状:消化管の障害による下痢,嘔気・嘔吐,腎臓の障害による蛋白尿,むくみ,心臓の障害による息切れ,むくみ,動悸,不整脈などです.
治療:関節リウマチなど,アミロイドーシスの基になっている病気の治療を強化し,炎症を抑えます.
4. Aβ2Mアミロイドーシス
(別名:透析関連アミロイドーシス)
Aβ2Mアミロイドーシスは,ベータ2ミクログロブリン(β2m)というタンパク質から構成されるアミロイドが様々な臓器に沈着する病気です.
原因:長期間の透析が原因です.β2mは透析で除去されにくいため,血液中のβ2mの濃度が高くなり,アミロイドを形成して沈着します. 透析歴20年の患者さんでは約8人に1人がアミロイドーシスを発症すると報告されています.
症状:肩・手・股・膝などの全身の関節の痛み,手根管症候群による手指のしびれ・痛み,脊柱管狭窄症による腰や足の痛み・しびれなどです.
治療:透析液や透析方法を工夫することで,発症の予防や進行の抑制をします.